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北代 省三

大型カメラの世界

2019.11.11 - 11.29

出品リスト

Checklist of the Exhibition

『現代カメラ新書 No.20 大型カメラの世界』のための写真 1970 年代 21 点

《自作ピンホールカメラ》 1960 年代 1台(川崎市岡本太郎美術館蔵)
《自作カメラ「ねずみ捕り」》1970 年代 1台(川崎市岡本太郎美術館蔵)

この度の展覧会に際しましては川崎市岡本太郎美術館のご協力を仰ぎました。


 橋梁と水辺、高層ビル、都市の夕暮れ、天体写真、ピンホールカメラで捉らえた木漏れ日。かっちりと丁寧に撮られた写真は、現代カメラ新書の1冊として朝日ソノラマ社から出された『大型カメラの世界』の挿図に使われたものだ。アマチュア向けの大型カメラ入門書として編まれた本書は、大型カメラの歴史から、その構造と仕組み、小型カメラと比較しての情報量、レンズやアクセサリまで、北代自身の作例を挿み、モデルに夫人も起用して例示した写真もまた印象的な一冊である。

 1950 年代は、戦後の東京で前衛美術の先端を走ったグループ「実験工房」の中核をにない、1960 年代には商業写真家としての多くの仕事を行ってきた北代は、しかし、1970 年代に入るとそうした肩書を軽々と棚に上げてしまい、もっぱら凧や模型飛行機の制作に没頭する日々を送ることになる。『大型カメラの世界』が刊行された1976 年は、すでに彼が商業写真家としての一線から身をひいた、そうした時期にあたる。

 若き日に、新居浜高等工業学校で機械工学を学んだ北代は、エンジニアという出自もあって、1960 年代には雑誌にカメラの機構の分析や提言を連載し、メーカーとの距離も近い位置にいた。メカニズムに「深入り」しすぎて写真を撮ることの原点を見失いかけた北代が、写真の楽しみを取り戻したのは、「写りすぎる」カメラを手放し、自らの手で組み立てる単純な構造の自作カメラだった。

 自分の手がおよぶ範囲でものづくりをすること。想定と模擬実験をくりかえして精度を上げ、平かで些細な工程においても、手作業にこだわること。手仕事への回帰と探求は、1970 年代の北代省三の活動と生活そのものであり、そうした日々の結晶というべき書物が『模型飛行機入門』である。『大型カメラの世界』と同じく1976 年刊行の同書は、模型飛行機の研究と制作はもとより、飛行機の歴史から紐解くことからはじめて、図解のための実験装置の自作、ジグの制作、そのほか細かい挿図やカットにいたる全てを自ら手がける徹底ぶりであった。

  山口勝弘は、北代が晩年に発表した木工オブジェの展示によせて、彼の実験と探求のありようを創造的な「遊び」の精神そのものとし、その「遊び」に満ちた生き方を「詩人であるというしかない」と評した。こうした自作カメラや模型飛行機への流れもまた、北代ならではの「遊び」の哲学にほかならない。

 

佐藤 玲子(川崎市岡本太郎美術館 学芸員)